『電脳冒険記ウェブダイバー』20thアニバーサリーSpecial Talk ネギシヒロシ×松尾慎(bilibili)×可知秀幸×高木義弘(グッドスマイルカンパニー)座談会(前編)
小学3年生が観ることを徹底的に意識して制作した『ウェブダイバー』
放送から20年を迎えた『電脳冒険記ウェブダイバー』。その物語の舞台となるのは西暦2100年。電脳世界(VR世界)が当たり前になっている世界観だ。主人公の小学生・結城ケントは、デリトロスの侵略で電脳世界「マジカルゲート」に取り残された弟や友達を助けるために、Web騎士・グラディオンのバディとなって戦うことになる。
放送された2001年は、SNSもまだ誕生していない時代。しかしマジカルゲートの在り方が、現代のヴァーチャルSNSそっくりであることに驚かされる。そんな時代を先取りした舞台設定と、ケントとグラディオンの友情が生み出す熱いストーリーが魅力の『ウェブダイバー』が、この冬Blu-rayBOXで還ってくる!限定版には、グラディオンのMODEROIDや、当時のキャスト陣による新規ドラマCDなど特典も盛りだくさん。
そこで本作の総監督、ネギシヒロシさん、中核的なスタッフの一人で現在はbilibili所属の松尾慎さん、アニメーションプロデューサーの可知秀幸さん、そしてMODEROIDの開発担当・グッドスマイルカンパニーの高木義弘さん(編注:高ははしごだか)に集まって頂きお話を伺った。
『ウェブダイバー』以前からの盟友
──ネギシさんの作品に松尾さんが参加されるのは、『ウェブダイバー』以前からずっと続いていて「盟友」の印象があります。
ネギシ でももう、ずいぶん昔の話になっちゃいましたけどね(笑)。最初に松尾君と一緒にやったのは『マシンロボ クロノスの大逆襲』(86年)のパイロット版(パイロット版のタイトルは『マシンロボ』)だったんじゃなかったかなぁ?
松尾 いえ、僕の記憶ではOVAの『装鬼兵M.D.ガイスト』(86年)なんですよ。あの時のネギシさんは演出っぽいけど具体的な仕事は良く分からない人で、「この人は何なんだろうなぁ?」って(一同・笑)。
ネギシ そうだった! 忘れてた、ゴメン!(笑)
松尾 その後『マシンロボ』のパイロット版を作る時に、僕が当時いたスタジオワンパタンにネギシさんが来て、それで「『ガイスト』の時の謎の人は、演出さんだったんだ〜」みたいな感じで。
ネギシ 松尾君にはいつも「ゴメンね、大変なので手伝ってもらって!」って、突然お願いすることが多くて。初めて最初から入ってもらったのは、『魔鏡外伝レディウス』(87年)なんですよ。でもその時も、松尾君はいろいろ掛け持ってて。
松尾 僕がネギシさんを信頼できる人だなと思ったのは、『大魔獣激闘 鋼の鬼』(87年)で。あの時はネギシさんは演出の補佐をやってたんですが、AICのスタジオでネギシさんは僕の後ろの席だったんですね。その時にいろいろ話をして「この人は良い人だ、話の分かる人だな」って(一同・笑)。だから僕はネギシさんは『鋼の鬼』での印象が強いんです。
ネギシ ああ、そうなんだ。『鋼の鬼』が、僕がAICさんに出入りするようになった最初の作品だったんですよ。
松尾 『レディウス』は、僕はもっとたくさんカットを持ちたかったんですけど、佐野浩敏さんに引っ張られて……。
ネギシ そうそう。でも『レディウス』で一番大事だけど一番大変なクライマックスのシーンを松尾君がやってくれて。いつも、そういうシーンばっかりやってもらって、申し訳なかったなぁって。
松尾 いえいえ、勉強させてもらいました。
ネギシ そう言ってもらえると、心が救われるけど。
──80年代終盤でのネギシさんの監督作で松尾さんの作画というと、88年の『超音戦士ボーグマン』13話「血戦!リョウ最期の日」がすごくインパクトがありました。
ネギシ あれは最初から松尾君が1本全部自分で作監(作画監督)をやりたいという話を聞いていて。各話脚本だった會川昇氏(13話の脚本担当)も「自分のポリシーを出せる回をやりたい」と、すごく意気込んでて、ちょっと尖った感じの話をやってみたいということだったんですよ。そんなことを少し松尾君に話したら、「そういう話数だったらやってみたい」って言ってくれて。
松尾 その話を補足すると、それまで僕はメカ作監の仕事ばかりだったんですよ。それでキャラクターの作監もやってみたいと思っていて、当時の葦プロのデスクの下地志直さんに相談したんです。そうしたら『ボーグマン』を紹介してくれて。それで僕はTVシリーズをやりたい気持ちが強かったから、本当はそのままローテーション作監として入りたかったんですよ。そうしたら、佐野さんに今度は『ヴイナス戦記』(89年)に引っ張られて(笑)。
ネギシ こちらも13話の後も、シリーズ構成上の重要回は全部松尾君に作監で入ってもらおうと予定してたんですけどね。でも『ヴイナス戦記』の作業が一番忙しい時に13話を作監だけじゃなくて、原画も一番たくさんやってくれたんです。
松尾 僕としては、そこがアニメーター人生の分岐点だったと思ってるんですよ。TVをローテでやらずに劇場作品をやったことで、真面目な演出さんの元で真面目に作画する方向になった気がして。
ネギシ でも確かに、あの頃TVの仕事をずっとやってたら、松尾君は「TVアニメの人」になってただろうなぁ。
それは、プラグイットから始まった
──それでは本題の『ウェブダイバー』の話に移ります。今回のBD-BOXの発端はグラディオンのMODEROID化だったそうですが、その経緯というのは?
高木 弊社では1〜2年に一度MODEROIDの商品化アンケートを行ってるんです。ユーザーの方に「MODEROID化してもらいたいロボ」を聞くというシンプルなものなんですが、2回目の時にグラディオンが上位に入ってきたんです。。
ネギシ・松尾 へぇ〜!(感嘆)
ネギシ ビックリだよね。
松尾 そうですね。
高木 ちょうど、ここ数年は90年代末〜2000年代頭の作品の商品化が増えてきているんです。恐らくその年代のロボットアニメに触れた世代が、弊社のメインターゲットになりつつあったというようなところもあり、ニーズの高まりというか盛り上がりもあって、タイミング的にもちょうど良いのではないか?ということで企画しました。ただ、僕自身は『ウェブダイバー』放送当時はもう大人だったので、いわゆるリアルタイム世代ではないんですけど。でも当時はずっと観てました。
──グラディオンのMODEROID化の話を聴いた時の印象は?
ネギシ 初めて聴いた時は、「よくプラモ化出来るなぁ」って(笑)。正直、玩具として出来上がっていたものだったので、それを新たにプラモ化するとどうなるのか?は、現物を見てみないと分からないところがあったので、本当に最初は「へぇ〜」っていうだけだったんですよ。もちろん、関心はありましたけど。
松尾 僕は……グラディオン自体は僕がデザインしてたわけではないので、あれなんですけど(苦笑)。MODEROIDといえば、『パトレイバー』の零式は買いましたよ。
ネギシ やっぱり出来上がったもの(デコレーションマスター)を観てみないと、なんとも言えないですよね。実際、写真よりも現物の方が全然良いなぁって。それくらい違ったのでね。
松尾 グッスマさんには、ぜひ『レディウス』の商品化も!(一同・笑)
──作品の話になりますが、『ウェブダイバー』の話がネギシさんのところに来た段階では、どの程度設定などは決まっていたんですか?
ネギシ 設定も何も……まずタカラさん(現タカラトミー
)からイオン(のちのウィーヴ[現フリュー])さん経由で玩具の遊び方についての企画書が来たんです。「TVに繋いで連動する『プラグイット』という機能を使った商品を出したい」ということだったんですよ。ただ『ボーグマン』もそうでしたけど、僕としてはTVと玩具の連動ってなかなか難しいという印象があって。『ボーグマン』では玩具と連動させるために、放送コードギリギリの高い音を本編中に効果音として流しましたからね。だからプラグイット機能でTVゲームと連動するって、すごいむちゃぶりだな!というのが、最初はありました(笑)。でも発想はすごく面白かったです。コントローラーが変形ロボの玩具そのもので、そこはビックリもしました。
──その段階では、コンセプトだけだったんですか?
ネギシ ええ。主役ロボの玩具用デザインもまだなくて、大枠として「ゲームのコントローラーとしてのロボット」というイメージがあっただけです。そこでイオンの可知さん含めて説明を受けた感じでしたね。
可知 当時タカラさんは、e-karaっていうTVに直接繋いで遊ぶカラオケマイクを発売していて、そのシステムを応用した玩具をいろいろ出していこうという流れがあったんです。その中にロボット玩具の企画もあって、これを使ったアニメは出来ませんか?みたいな、ざっくりとした話だったんです。僕は僕で、ネットを題材にしたアニメの企画を温めていたので、それと合わせたようなところが出発点でしたかね。
──グラディオン達Web騎士のデザインは、どういう形で決まっていったんですか?
可知 まず最初は、当然タカラさんが元のデザインを起こして、そこからはアニメ側とキャッチボールしながら詰めていきました。登場するWeb騎士の数も、最初からきっちり13体と決まっていたわけではなく、だいたい「それくらい」という感じでしたね。
作品タイトルを、主役ロボそのものにしなかった理由
──作品タイトルは、定番の主役ロボの名前ではなく「ウェブダイバー」ですね。
ネギシ でも『NG騎士ラムネ&40』や『魔神英雄伝ワタル』もそうですけど、主人公の少年をタイトル名にもするじゃないですか。つまり「ウェブダイバー」というのは、主人公……結城ケントの意味なんですよ。話そのものはグラディオンと結城ケントの話であって、それも主人公目線でグラディオンと出会って、彼に力を貸すために戦うという物語なので、主人公の少年の意味の「ウェブダイバー」をメインのタイトルにしました。それと、タカラさんとしても他の作品との違いを出したいというのもあって。あと当時は「グラディエーター」(剣闘士)という言葉の響きが、みんな好きで(笑)。「グラディオン」だと被り気味だったんです。商品名としては構わないんですけど。その辺もあったと思います。
──「電脳冒険記」という副題は?電脳は、コンピュータとかネットが題材だからだと思うのですが。
ネギシ そこはそうですね。「冒険記」は、『十五少年漂流記』みたいに子供達が舞台となるコンピュータの世界で旅をして、立ちはだかる敵と戦うコンセプトだったからです。そこは「戦う」のがメインに見えるのが嫌だったんですよ。例えば「電脳戦記」だと、ひたすら戦うイメージじゃないですか。あくまで子供達目線で、友情とかのために戦う。そういう風にしたかったからです。
──今でいうVR世界が舞台というのは、どこから発想されたのですか?
ネギシ でも企画を立ち上げて設定を決めていたのは2000年ですからね。VR云々は世間的には全然一般的じゃなくて。自分としては単純に、RPGアニメにはしたくなかったということですよね(笑)。
──今観ると、マジカルゲートの概念は現代のヴァーチャルSNSそのもので、ものすごく驚きました。
ネギシ 僕からすると、『レディプレイヤー1』を観た時に、「『ウェブダイバー』では、まさにこれがやりたかったんだ!」って思いました。当時は予算の問題とかCG技術の問題とかがあって、かなり無理難題だったです(笑)。
──確かにウェブダイブって、「搭乗する」というよりもアバターを纏うようなイメージに近いですよね。
ネギシ そうですね。当時は、そこの表現がちょっと大変でした。それから、プラグイットしてコンピュータ世界に入るとはいえ肉体は現実世界にいるので、疑似体験という形にするしかなくて。その理屈付けも結構苦労しましたよね。シリーズ後半は、疑似体験じゃなく普通にコンピュータ世界に行っちゃってましたけど(笑)。
物語の構成と綿密に絡んでいるマジカルゲートの世界観設定
──マジカルゲートの世界観は、どういう感じで詰めていったのですか?
ネギシ そこはシリーズの構成にも絡んでいて。まず商品企画として、年間にどれだけロボットを出したいかの計画が、タカラさんから来るんです。そのうちの3体くらいが主力となるデラックス仕様で、グラディオンは当然それで。さらにドラグオンやダイタリオンもその仕様の商品なんですが、玩具には春、夏、冬で大きな商戦時期があるので、春は主役ロボのグラディオン、夏場がドラグオン、そして冬のクリスマスに向けにダイタリオンという発売スケジュールが事前に決まってました。それに合わせて物語の山場を作るわけです。やっぱり一番最後に来るのは最強の敵……つまりダイタリオン。そこに至る前には、ライバルとなる強敵・ドラグオンが出てくる。だからマジカルゲートは3層に分かれてる世界観で、一番奥にダイタリオンがいて、その手前にドラグオンがいる構造になってるんです。一層ずつクリアしていく度に本来は仲間である敵が出て来て、そこでグラディオンが「眼を覚ますんだ!」となる展開なんですね。その構成に合わせる形で世界観を考えたわけです。
──そのメイン3体に付随するWeb騎士……一番上の階層だとジャガオンやシャークオン達を無理なく配置するところから、「ワールド」がたくさんある設定が出てきたんですね?
ネギシ そうなんです。1クールごとくらいに総集編がありますよね。それでその度に、最終回っぽい話を入れて「ああ、グラディオンが死んじゃった!」って思わせたところに、洗脳が解けたWeb騎士が現れて「大丈夫だ」っていう。そういう展開が、観ている子供達は喜んでくれるんですよ。そんな構成上の「戦略」みたいなところも含めて考えた世界観だったんです(笑)。
──商品名ともいえる「プラグイット」を、マジカルゲートにダイブするコールとして使っているのが上手いですよね。
ネギシ やっぱり別の世界に行くという区切りのところで、切っ掛けになるワードが欲しかったんですよ。ちょうど商品名が良い感じだったので、そのまま使わせてもらいました。それで「電脳世界に行ったぞ!」感が出ると。やっぱり子供達がマネしてくれることが商品の売り上げに繋がるので、子供達に「プラグイット」という言葉をまず覚えてもらおうと。それでマジカルステーションに行く時のバンクカットで言うようにして、ケント役の小林由美子さんには、毎回繰り返し繰り返し叫んでもらいました。お陰であの人が「マジカルゲートへプラグイットっ!」と絶叫してくれれば、この世界は正解!みたいになりましたよね(笑)。
Web騎士の変形は、玩具会社の熱意の賜物
──Web騎士の高速移動形態のモチーフになる乗り物や、ファイターモードでの動物のモチーフはタカラ側からのものですか?
可知 そうです。そこは玩具としての遊びと連動してますので。それに対して設定的な理屈を考えたのはアニメ側になります。
松尾 僕、当時実際にタカラに行って、そこで玩具を作ってる技術者の方ともお話したんですけど、メチャメチャ拘って作ってるようでした。「他社ではやってないモチーフをロボットに変形させる」って言ってました。しかも雰囲気だけのなんちゃって変形じゃなくて、ちゃんと帆船の形になるとか、きちんとした機関車になるように開発しているんだと言ってました。だから『ウェブダイバー』に対しての熱意はすごかったです。「勇者シリーズ」から数年経って、またそういう感じの子供に向けた新しいロボットのシリーズを創るんだという気概が、技術者の方と話をして感じました。そうなったら良いなぁって話もしました。それと「僕としては、目や鼻や口がちゃんとあるのが良いですね!」って言ったら、すごく喜んでくれました(笑)。僕、黒目があるロボットが好きなので。
可知 タカラさんとしては、『トランスフォーマー』との差別化をしたかったところから、黒目にしたみたいです。
──グラディオンは気合いが入るような時に、一瞬瞳孔が猫目になりますね。
ネギシ あれは松尾君のアイデアなんですよ。
松尾 そうなんですけど、なんでそうしたんだろう?(笑)
ネギシ 戦闘時はフェイスガードが出て口が見えないから表情がわかりづらいじゃないですか。そうしたら「目で見せましょう」って松尾君にいわれて、「なるほど!じゃあ、どう表現する?」って訊いたら「猫の目みたいになるんです」って言ってたよ(笑)。
松尾 ああ、全然覚えてなくて申し訳ありません(一同・笑)。そう思ってたのかぁ。
ネギシ それでOPでの瞳孔がシャキーンって変化する作画を見て、こういう風に戦闘モードに入るのか、なるほどなぁ!って思ったんですよ。
松尾 そこは、上手く出来たかなとは思ってはいるんですけど(笑)。
──Web騎士達は、知性と感情を持った存在ですが。
ネギシ グラディオンは、人間が作ったロボットとして誕生した存在なのか?それとも電脳世界に溶け込むために、今のボディと一体化している異星人なのか?っていう部分……つまり作品のバックボーンになるネタが、自分の中にあったんですよ。そこから人間の少年との友情を培う話になったというか。グラディオンは、過去を背負ってるわけですよ。そういう物語にしたかったんです。
──Web騎士の名前やキャラ性は、どうやって決めていったんですか?
可知 Web騎士の名前はタカラさんが考えたものです。またタカラさんがゲームを作っている関係上、一人称やグラディオンの呼び方なども設定を作っていて、それに合わせた大まかなキャラ性……「このWeb騎士はこんな感じの人」みたいなものもありました。例えばダイタリオンの「我」とか尊大な帝王みたいなイメージはタカラさんが考えたもので、それを元にアニメ側で翻案して拡げていった形です。
CGのために作られた作画用のメカ設定画
──メカアクションがフルCGだったのも大きな特徴でした。
ネギシ これは作画の事情が大きかったです。やっぱりメカ作画は大変で、当時すでにある種限界に達してたところがあったんですね。負担を減らすために細かいカット単位でたくさんのアニメーターに描いてもらうと、ディテールの統一が大変になってしまうし。
──作画負担の軽減でのCGだったんですね。いわゆる作画用の線画設定も作られてますが。
ネギシ 最初にタカラさんから来た玩具用デザインは、商品化に向けて練っている段階のもので、ディテール等含めた要素のボリュームがすごく大きかったんです。モデリング発注では、3Dスタッフ側からは「出来るだけ最終決定稿に近いものが欲しい」と言われるので、そこで「2D(作画)だったらこういうプロポーションになります」という、いわば参考設定として松尾君達に起こしてもらったんです。でも松尾君達にしてみたら辛いですよね。作画でやらないことは分かってるのに、なんで作画用設定が必要なんだろう?って話になりますから。
──当時発売されていたグラディオンの玩具に比べると、線画設定はマッシブですね。
ネギシ その設定画を踏まえつつ、最終的な玩具デザインに合わせて3Dモデルもシェイプアップされていったんです。つまり、すべてを一度作画用のメカ設定に集中させて、それを「アニメ化に於けるデザインにしたい」とタカラさん、モデリングのCG会社さんに提案して、タカラさんでブラッシュアップした決定デザインからCGモデルを作ったんです。
──EDの設定協力とクレジットされている松尾さん達は、この作画用設定の作成になるんですね?
松尾 そういう感じです。僕がデザインしたのは帆船になるドラゴン……ガリューンでしたっけ?
ネギシ そう、ガリューン。グラディオンは鈴木藤雄君ですね。彼はロボットが好きなんだよね。参考用のポーズ設定とかも鈴木君だと思います。
可知 アニメーターさんが起こした設定画は1クール目に登場するWeb騎士だけで、ドラグオンやダイタリオンは作画用にアレンジしたプロポーションやポーズ参考は作ってないです。中盤以降に出てくるものに関しては、CGモデルの方向性も定まったので、その作業を挟んでないんです。
松尾 CGについては、当時のラディクス的には3D技術の革新化を目指していたところもあったみたいでした。ただ1つのモデルで全部を賄う、データが重たいモデルしかなかったんですよね。僕は本編のアクションがし易いように、データの軽いモデルも作った方が良いのでは?と提案はしたんですけど。こちらとしては、作画だったらすごく動くんだぞ!っていう気持ちもあって、それを広く知ってもらいたかったんです。そういう意地っぽいところが、OPにも繋がっていくんですね。
ネギシ CGディレクターを担当した山口さんは、CGモデルの手足の関節をアクション向けに組み直すところからはじめたんですよ。初期はその作業が追いつかない部分もありましたけど、話数を重ねるごとに動く範囲もだんだん拡がっていきました。それから本編のCGパートはラディクス社内でやっていたこともあって、僕から「こんな感じで」とイメージを伝えたり、CGスタッフから「コンテではこうだけど、CGだと難しい」みたいな指摘を受けたりというのを、互いに直接してました。出来る範囲の中で最大限に頑張ってくれました。
グラディオンが変形時に頭を持ち上げるのは、アラレちゃんモチーフ
──グラディオンの変形バンクのコンテは、ネギシさんが描かれたんですか?
ネギシ 違います。松尾君じゃなかったっけ?だって、玩具通りの変形プロセスを再現するのに、頭を自分の手でヨイショと持ち上げるって画期的だなぁって言ったら、「あれは、アラレちゃんが自分で首を持ち上げる感じなんですよ」って言ってたの、松尾君だよ。
松尾 変形バンクのコンテ……?ああ、そんな事も言った覚えがあります。
ネギシ 言ってたよね!(笑)それで最後にフェイスガードが出て、そこから蒸気みたいなものがプシューって。
可知 リアルに考えたら、蒸気が出るハズないのに(笑)。
──じゃあ、各Web騎士の変形バンクもいろいろな方にお願いされてたんですね。
ネギシ 僕は本編作業で手一杯だったので。僕の方で、コンテの尺だけ調整しました。CG側に「このくらいの尺で収めてください」という感じで。
──バンクと言えば、1話2話では「ブレイク・ザーン」と言わずにグランブレードで敵を倒してますよね。
ネギシ 1話2話の相手は雑魚のウェブソルジャーで、それは銃で撃って倒すだけで良いということだったので、グランブレードの技もそれくらいの威力なんですよ。でも3話のジャガオンはWeb騎士だからウェブソルジャーより全然強いわけです。それを倒すためには必殺技を出さないとと。要するに必殺技は強い相手だから出すんですよ。弱いメカにはわざわざ使わなくて良いんです(笑)。
可知 それと、洗脳された仲間を解放するために使う「特別な技」の意味も含めて設定したはずです。
──1話2話は純粋な一刀両断だから技名も言わないし、ケントがブレードを振るうカットもないんですね。ブレイク・ザーンの「ザーン」は斬撃の「斬」ですか?
ネギシ その通りです。
可知 「斬」は、当時のラディクスのアニメーションプロデューサーの野村宙さんが拘っていたところですね。
ヒロインは『あ』から始まる名前がヒットする
──ケント達レギュラーの子供達のネーミング由来や、キャラ性の決め込みは?
ネギシ ネーミングは難しく考えているようで、そんな事もないんですよ。まずアオイですけど、「ヒロインは『あ』から始まる名前がヒットする」法則が自分たちの中にあって(笑)。制作管理の植田もとき氏がタツノコプロ時代に『赤い光弾ジリオン』でアップル、僕が『ボーグマン』でアニス。さらに『宇宙の騎士テッカマンブレード』でアキと来ていて、「あ」がつくヒロインは絶対に当たるよねっていう話をしてて。それで、アオイになったんですよ(笑)。
──あははは!(笑)
ネギシ 結城ケントは、単純に語呂です。結城は「勇気」から来ていて、そこで弟と並べた時に言いやすくて被らないもので、ケントとカイト。その3人の名前とのバランスで、他の面々の名前を考えていきました。ジャンだけは海外に住んでる子なので、ちょっと違う響きにしましたけど、それ以外のケントの友達は普通に同級生としていて違和感のない響きの名前で考えました。
──カイトは兄であるケントをすごく慕ってますね。
ネギシ ケントはよくある猪突猛進型の性格で、それとは好対照で弟はちょっと腰が引けている。お兄ちゃんについていってマジカルゲートに入ったんだけど、結果としてケントは弟を置き去りにしてしまった。その罪悪感だけでケントは悩むわけですよ。だからカイトはちょっと弱気な子にしてあって、でも最後は「兄ちゃんに負けない!」っていう風に成長を見せようと。それは最初から決めてました。
──37話という少し遅めのタイミングで、カイトがワイバリオンのウェブダイバーになるのは、その狙いからだったんですね?
ネギシ いや、そこはそうではないんですよ。ワイバリオンは、ダイタリオンまでのラインナップが出揃った後に、突然タカラさんから「こういうコンセプトの商品も出します」って言われて……(笑)。
──むしろ想定していたドラマに、上手くハマってくれた感じだったんですね?(笑)
ネギシ ええ(笑)。ただワイバリオンは変形としては一番複雑で、でもすごくカッコいいんですよ。こっちとしては「最初に言っておいて欲しかったよ!」って(笑)。
可知 そういうこともありますよ(笑)。
ジャン、ナオキ、ショウのキャラ性
──番組企画書には名前は違うものの、ケント、カイト、アオイ、ナオキ、ショウに相当するキャラは出揃ってますが、ジャンだけはいないですね。
ネギシ ジャンはどちらかといえば、ガリューン合わせで考えたキャラなんです。ガリューンはあえて敵か味方か分からないライバルキャラにしたので、意外な人物がバディになったと感じさせたかったんですね。それで同級生ではない友達が良いだろうと。マジカルゲートではケントはジャンとは何度も会ってるんですけど、知り合ったのは、この世界で遊ぶようになってからで。一方、正攻法にライバルのドラグオンのバディになるナオキは、ケントとは幼稚園の頃からの「永遠のライバル」で負けず嫌いな性格にしました。ショウはダイタリオンのウェブダイバーと決めてはいたんですが、人間キャラを考えている段階ではダイタリオン自体を、劇中でどう活躍させるかのイメージがまだあまり具体的でなかったんですよ。ただちょっとカリスマ的な使い方にしようよという話になって、それでクールなイケメンになったんです。ちゃんとハマってくれる役者さん(甲斐田ゆきさん)がいてくれて、助かりました。
──カロンの語尾が「ぴょこ」なのかすごく気になっていたんですが、企画書では、ウサギ型ロボのシルエットで紹介されてますね。
ネギシ いわゆる可愛い系のマスコットキャラということだったんですが、電脳世界でそういう見た目はアリなんだろうか?って。そこをどう寄せるかで、デザイナーさんは苦労したと思います。カロンは最終的には、商品化も可能なようにメカっぽい方向に落ち着きました。
──企画書に掲載されてるケント達に相当するキャラは、みんなTV本編のデザインよりも等身が高めで、ちょっと大人びた印象があります。
ネギシ そうですね。だから少し等身を下げてもらったんですよ。それから、一発で性格が分かるような感じの髪型にして欲しいとお願いしました。今は違うかもしれないんですけど、8〜10歳くらいの子というのは影響を受けやすい年頃なので、アニメやマンガを見てカッコ良いと思ったキャラクターと同じ恰好をしたい小学生が多かったんです。それでちょっとバーストした(奇抜な髪型の)デザインに……でも子供向け作品では、そういう発想は今も続いている気はします。
子供達とWeb騎士をバディ関係にした狙い
──ケントとグラディオンだけでなく、ジャンとガリューン、ナオキとドラグオンといった感じで、ウェブダイバーの子供達とWeb騎士がバディ関係になってますね。
ネギシ あくまでも、この世界に入っている少年達の物語なので、少年達がウェブダイバーとなってWeb騎士達と一緒に戦うわけです。実際に玩具を買ってくれる子供達は、それぞれお気に入りのWeb騎士の商品を手にしてくれることになりますよね。つまり、商品を買ってくれた子供が、「ウェブダイバーになりきる」のが一番良いなと思ったんです。ドラグオンが好きで買ってくれたら「僕のドラグオンだ!」って、感じてもらえるように。この作品は小学校低学年をターゲットにしていたこともあって、「ごっこ遊び」が出来る……「僕はグラディオンやるね」「僕はガリューンだ」みたいに出来る配置(バディ関係)にしたんですね。
──そこから、本編のドラマとしてはバディ同士の友情の話を、一つの軸にしていったんですね?
ネギシ 個々の視点でいえば、ドラグオンはこういう性格、ダイタリオンはこういう性格とドラマがあるわけです。でも主人公はケントなので、そのバディのグラディオンとの関係を中心に、子供達が一人一人集まって来て各Web騎士のバディになって、そうしたドラマを掘り下げる。そういう作りですよね。
──敵であるデリトロスは、男児向け作品の一つの定番である「超えるべき大人の象徴」ではないのが、意外とポイントですよね。ラスボスは、実は主人公の父親でした!みたいなことではないじゃないですか。
ネギシ 実は前期OPのアオイちゃんの見せ方が、それに似たネタの伏線だったんですよ。あの電脳世界を作ったのは、アオイちゃんのお祖父ちゃんなわけですよ。
──つまり、アオイとデリトロスになんらかの絡みを持たせる構想もあったんですね。
ネギシ ただシリーズ構成の関島眞頼さんと話をしていて、そこをドンドン深掘りしていってしまうと、視点が複雑化していっちゃうんですよね。なのでそこは、複雑な話にすることなく「正義と友情」というか、ケントが電脳世界に閉じこめられた弟のためにグラディオンと戦うシンプルな方向にするために、典型的な人間的な感情を出さない敵にしたんです。
──それでデリトロスは純粋悪意みたいな存在になったんですね。
ネギシ そうです。コンピュータ世界の中では、感情的なものはないですよね。「人間を抹殺せよ」と命じられたら、プログラム自体は「思惑」とか「感情」とかとは関係なく攻めて来るわけですから。
──一方で、ケントの父親やショウの姉が分かり易いですけど、子供達を助けるために危険を冒してマジカルゲートにダイブとか、子供達救出のワクチンプログラム開発に邁進するとか、大人キャラが大人としての責任を果たすという立場が貫かれます。
ネギシ 大人が創った子供達だけの世界の中で事故が起きてしまった。そこから端を発している話なので、自分達で基本は何とかしなきゃいけない。単純に、そういうことなんです。マジカルゲート自体は大人が管理しているのを1話の時点で具体的に見せて、「大人は何をしてるんだ?」と疑問を感じさせないような構成にしてるんです。
松尾慎さんから見ても納得のMODEROIDグラディオンの顔
──高木さんから見てのグラディオンやWeb騎士の魅力というのはどうですか?
高木 当時の記憶にはなるんですけど、今までのロボットアニメとは違うデザインラインだなと感じたのを覚えてます。一番記憶に強く残っているのは、先ほど話題に出たガリューンなんです。当時、竜人型のロボットは結構珍しかったと思うんです。その上で帆船に変形するというのは類をみないもので。すごく斬新だなぁと感じました。Web騎士全般的に突出したデザインが多いですけど、その中でも印象的でした。それとガリューンの帆船もそうなんですが、ダイタリオンの飛行船モチーフ、ワイバリオンのプロペラ機モチーフが、他と大きく差別化されてるところだなぁと思っていて。そういう全体的なモチーフの幅広さとデジタル要素がデザイン的に上手くまとまっているのが、一線を画すところであり、魅力なんじゃないかなと思います。
松尾 高木さんに質問なんですが、グラディオンの顔は玩具、作画、3Dとある中で、MODEROIDではどの辺を参考にされてるんですか?顔は、いろいろなところから良い部分を抽出してる感じがするんですよ。
高木 それは仰る通りです。それは顔に限らないんですけど。グラディオンを商品化すると決まった時に、20代後半の人達にヒアリングをしたんですよ。OP(作画)が印象に残っている人がやっぱり多かったんですけど、本編の3Dのグラディオンが印象的という人や、当時玩具を持っていてその印象が強い人もいるので、そこはハイブリッドにするのが良いんじゃないかという方向で話がまとまりました。だから本当に、いろいろなところの要素を抽出して、あの顔の造形になってるんです。
松尾 なるほど。実は、この座談会のためにOPを改めて見直したんですけど、OPだけであまりにも「いろいろな顔」のグラディオンがいて(一同・笑)。『ウェブダイバー』のメカ作画で一番活躍しているのは鈴木君なんです。でも鈴木君は、割とファットなフォルムのロボが好きなんですね。僕は手足の長いロボにして欲しいなと思ってたんですけど、鈴木君がグラディオンを丸っこいデザインで纏めてきたのを見て、内心少し気になっていたんですよ(一同・笑)。でも僕は自分好みの面長のイケメンで描いてたんです。自分が描く顔は面長で、鈴木君が丸っぽくて、佐村君が超面長イケメン系で、前期OPのラストカットがそうなんですけど。そんな風にあまりにもいろいろな顔がある中で、偶然かもしれないんですけど、MODEROIDのグラディオンの顔は成世君が作画した顔にすごく似てるんです。もしかしてあえてキャラクターデザイナーの作画に合わせたのかな?って、ビックリしてたんですよ。「この顔、オレの作画でも鈴木君の作画でもないじゃん」って(笑)。確か、当時の番組宣伝ポスターの版権(編注: BD-BOXの告知用画像に使用しているイラストでもある)を成世君が描いてて。それが分かり易いです。
高木 「この絵の通りにしてください」みたいな具体的なオーダーは、私の方からは全然してないんですよ。
松尾 でも、すごく良いチョイスだなぁと思ってます。良い塩梅のバランスの顔になっていて。ただ、成世君の作画を意識してたなら、もっとすごかったなぁって(一同・笑)。
新規ドラマCDの聴きどころ
──限定版には、新規のドラマCDが同梱されます。
ネギシ MODEROIDとの連動も含め、企画としてはフロンティアワークスさんの発案です。そこでお客さんの目で見た時に、声優人気も高かったので……今ではちょっと考えられないくらい豪華なメンバーですからね。そこで贅沢に、TVの1話分の尺を使った声のドラマになりました。それを聴いて「Back to the 20年前」を味わってもらえればと(笑)。話の内容は、結構真面目です。変なおふざけ要素はないですから。
──ドラマCDの聴きどころは?
ネギシ 本編の最終回から劇中の時間で5年後という設定なんですが、役者さん達が「5歳成長した声」を頑張って演じて下さってます。聴きどころはそこです。きっと絵もあった方が分かりやすいんでしょうけど、自分としてはケントの5年後の姿を具体的に見せるのもどうなんだろう?っていう気持ちがあって。ですから、そこは声から、聴いたみなさん自身で想像してもらいたいです。
──コロナ禍でアフレコの人数にもある程度制限があるようですが。
可知 概ね二日間で収録したんですが、ケントとグラディオン(小林由美子さんと杉田智和さん)については完全に一緒に収録できました。
ネギシ みんなノリノリでした(笑)。それから、杉田君が大人になったなぁって思いましたよ。そこもちょっと嬉しかったですね。当時アフレコ現場では、杉田君はいつも飲み会のことばかり考えてて、小林さんが「真面目にやりなさいよ〜」っていうと「オレはいつだって真面目だ〜」なんて、漫才みたいなやりとりをよくしてましたね(笑)。
──当時『ウェブダイバー』を監督する上で心掛けていたことは?
ネギシ とにかく子供を置いてきぼりにすることがないように、ものすごく心掛けて作ってました。子供をターゲットにしているのに、高い年齢層ばかりに受けちゃうのは、自分としては辛い部分もあるんです。TVアニメは観る側としては無料ですけど、クライアントとしては商品のターゲットと視聴者層が一致しないと作品が成立しないですから。『ウェブダイバー』では、徹底的にそこを注意してました。小学3年生が観るアニメなんだぞ!って。その分、OPは弾けてましたけどね(笑)。
[インタビュー/ぽろり春草]
MODEROIDグラディオン、ダークグラディオン原型担当 カロンさんコメント
──簡単にスタジオの紹介をお願いします。
ロボットが好きすぎて、自分たちの手で作らずにはいられなくなった人達が集まっているスタジオです。
──ウェブダイバーへの想いをお聞かせください。
魅力的なキャラクターたちと、洗練されたデザインで素敵なウェブナイトたちとの交流と友情の冒険記がとても印象的だった作品でした。
そして、1・2期OPの映像美は今見ても目を引かれるほど素晴らしいと思っています!
──グラディオン、ダークグラディオンを設計するにあたりこだわった点は?
OPに登場するプロポーションのグラディオンをどうすれば完全変形で実現できるか、悩みながらできるだけ劇中・DXのおもちゃと同じ変形シークエンスを再現できるように細かく調整しました。
それ以外に気を遣ったのは、やはり顔のグランアーメット展開部分でしたね。小さいサイズで再現する必要があったので、SLへの変形以上に最も気を遣ったポイントではないかと思います。
──後期OP(SO DIVE!)のラストカットの手のパーツはどのような想いから作られたのでしょうか?
特徴的なポージングはそのロボットの持つイメージを印象付ける重要な要素の一つ、という想いからトライしてみたいと考えていました。
OP場面でグランアーメットを上げる手の動きがとても印象的だったので、企画担当の高木さんにこっそり提案してみたのですが、快く取り入れていただき凄く驚きました(笑)。
※画像は開発途中のものです
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