キャストインタビュー/朗読劇「Weeknight Storytime -超訳文学 夢十夜-」

貴重な1対1の芝居に10年来の付き合いのふたりが挑む。『Weeknight Storytime -超訳文学 夢十夜-』伊東健人さん&西山宏太朗さんインタビュー

 

様々な名作文学を現代的な表現でアレンジし、“朗読劇”というエンターテインメントに落とし込む企画「超訳文学」。その最新公演は夏目漱石の名文学『夢十夜』を原作とした朗読劇『Weeknight Storytime -超訳文学 夢十夜-』。原作と同じく夢なのか、現実なのか、曖昧だけどどこか心地の良い物語の数々が、現代的なアレンジが加えられた新文学として生み出されました。

演じるのは伊東健人さんと西山宏太朗さん。ふたりきりの舞台は貴重で、しかも、全2回の公演はそれぞれ役が逆になるという朗読劇としても珍しい仕掛けが特徴的です。

今回、第2回公演を控えるふたりにインタビューを実施し、演じるにあたっての心境や印象的なエピソードの数々について伺いました。

 

貴重なふたり芝居。互いを信頼し合う関係性


ーー「超訳文学」という企画に対してどんな印象を持ちましたか?

西山宏太朗さん(以下、西山):平日に、しかも2週間連続で朗読ができる機会はこれまでになかったので面白い試みだなと。台本を読んでみたらすごく口語的で、たくさんの掛け合いができそうだなと思いましたし、回ごとに仕掛けが変わるんだろうなとワクワクしました。

伊東健人さん(以下、伊東):僕自身、現代文学をアレンジした朗読劇に参加させていただくことは多いんですけど、今回の台本を読んでみて、ほかとは空気感が違うなと。よりフランクといいますか、明確に原文との違いがわかって面白いなと思いました。

ーーフランクな内容ということで、劇を楽しんだ方が元の作品を読んでみようと思うかもしれませんね。

伊東:そうですね。現代文学と聞くと難しいイメージがあるかもしれませんが、そのイメージを払拭するきっかけになれば良いなと思っています。実際、自分で読んでみても、間違いなく『夢十夜』という作品が読みやすくなっているんですよね。これを機に、『夢十夜』だけではなく、ほかの作品にも興味を持ってもらえると嬉しいです。

ーーおふたりは今回の劇の元となる『夢十夜』をご覧になったことはありますか?

西山:僕は養成所時代にあります。1夜ずつペアになって朗読するカリキュラムがあったんですよね。そのときは第3夜を担当しました。当時は原文のままでしたが、今回、読んでいてあの頃を思い出して懐かしい気持ちになりました。

ーー内容は異なるところもあると思いますが、当時と比べてアプローチなどに変化があったのでは?

西山:意外と変わっていないんですよね。逆に、今回はお父さん側を演じたことで、より役の理解が深まったところがありました。

ーーなるほど。声のお芝居を勉強する上では特に馴染み深い作品でもあるのですね。

伊東:教材になっていることは多いですよね。

西山:たしかに。

伊東:僕はクラスが違ったので演じていないんですけど、宏太朗がその朗読をしているのを見ていたんですよ。この作品、突拍子がないわけではなく、だんだん曖昧になっていく作りが特徴的ですよね。ちょっとした薄気味悪さがあるから、聞き手は戸惑ってしまうけど、途中、ハッとさせられる展開があって。そして最後にひっくり返されたりして。短編集でありながらもそれぞれの物語に繋がりを感じられるところが面白いですね。

ーーおふたりは養成所の同期であり、事務所も同じと、ご親交が深いのですね。

伊東:なんだかんだ10年来の付き合いだよね。

西山:そうそう。最近は仕事で会うことも多くて、この前は一緒に大阪に前乗りして、そのまま観光をしたりして。公私ともに関係が深い相方ですね。

ーー今回の共演をお聞きになっていかがでしたか?

西山:実はイベントやロケでの共演は多いものの、ふたりで芝居をする機会は中々なくって。

伊東:そもそもふたりっきりの芝居自体が中々ないもんね。僕自身、今回、1対1の空間はすごく集中できるだろうなと思いましたし、しかも相手は西山宏太朗ということで「なにも考えないで良いな」と。それだけ信頼しているところがありますね。

西山:僕としても、(伊東さんは)なにを放っても打ち返してくれて、心地の良いリズムと雰囲気で包みこんでくれる方だと思っていたので安心しました。伊東さんって、変化し続ける男なんですよ。どんどん引き出しを作っては仕分けをして、を繰り返している方で、演じるたびにいろいろなキャラクター像を見せてくれるので、今回も横で見ていて面白くて。僕としてはそんな伊東さんに引っ張ってもらうような気持ちでいました。

 

結局、夢ってこういうことだよね


ーー『Weeknight Storytime -超訳文学 夢十夜-』の台本をご覧になった際の感想をお聞かせください。

伊東:1808年の100年後なのかな?というときもあれば現代のゲームの話があったりして、「結局、これは何時代なんだ?」と思わされました。でも、そこでぼやかさないことで輪廻というものを表しているのかなって。

ただこの作品、生まれ変わると言っても、死んですぐなのか、ちょっと時間を空けるのか、それとも過去に戻る可能性もあるんじゃないか。そういう可能性が上手いことぼかされていますよね。

ーーちょっとした会話が伏線になっていたりもしますものね。

伊東:そうですね。ゲームの話とか、ちょっとした遊びのような会話に聞こえますが、実は「今は現代の話なんだ」と認識させる良いスパイスになっていて。そういうふうに、いろいろなところで聞き手の意識を飛ばす仕掛けがあるからこそ、長く感じないんだろうなと思いました。

西山:第1夜でクラシカルな雰囲気を漂わせたと思いきや、第2夜からクソ坊主が始まるという(笑)。演じる身としてはその切り替わりが楽しかったですし、いろいろな旅を一気見している気分になって、これはお得だなと(笑)。1夜1夜のバラエティの振り幅もすごくて、聞き手の満足度が高いんじゃないかなって思いました。

ーー登場人物が良い味を出していますよね。

西山:この作品、登場人物が素直じゃないといいますか、曲者ばかりで物語の良いスパイスになっているんですよね。演じる身としてもこの曲者たちを演じてみたいなと思わされましたし、それだけのパワーがある脚本なんだなと。

ーー物語の幕開けとなる第1夜は不思議な雰囲気に包まれていました。

伊東:どこか神秘的な雰囲気でした。そもそも、この物語をふたりで喋るって変なんですよね。ふたりでひとりを演じているみたいで、演じる身としても異質さは感じていました。

西山:第11夜を終えたあと、またこの第1夜を聞き返してもらうと、いくつか伏線があったことに気付くと思うんですよね。ふたりとも同じ夢を見ていたんじゃないかなって。

伊東:全部ハッキリと言っていないのが良いところだよね。

西山:たしかに。個人的には、暗闇で声を揃えるところが難しくて印象に残っています。

伊東:あー。「せーの」と言うわけにはいかないし、顔の動きを見ることもできないからね。

西山:そんな緊張感が漂う中、どちらかが息を吸うタイミングに合わせてセリフを読みました。稽古のときは本当に合わせられるのか不安ではありましたけど、初日やリハーサルが上手くいったので、この調子で本番も頑張りたいです。

ーー合図もなしに声を揃えるのは大変ですよね。

西山:そうですね。ただ、ふたりが混じり合って、バラバラの人間が重なっていくようなところはこの作品の大事な部分ですし、ふたり芝居ならではの要素でもあるんですよね。そして、その要素の数々が第1夜の段階で表現されていたというのがまた面白いですね。

ーー第1夜はシリアスな展開を感じさせましたが、どんどんコミカルになってきて、第5夜では漫才のような掛け合いを楽しめました。

伊東:コントみたいでしたね(笑)

西山:そうそう。みなさんの緊張感がほどけているのが伝わってきて嬉しかったです。

伊東:このあたりから笑い声が聞こえたりしてね。そもそも、この物語の登場人物たちはギャグをやっているつもりではなく、至って真面目なんですよ。なので、こちらとしても真面目に演じていたところはあります。

ーーそのおかげで、どこかシュールなギャグ感が出ていたのですね。一方、第6夜はシリアスとも、コミカルともちょっと異なる物語でした。

伊東:1番中身がない物語でしたね(笑)。自分が暇な大学生だった頃を思い出しました。

西山:(笑)

伊東:すべての言葉に意味がないんですよね。

西山:そうそう。会話をしているけど、頭の中では「ラーメン食べたいなぁ」とか違うことを考えているような感覚だったんじゃないかなと。

伊東:でも、彼らは今の大学生っぽいけど、おそらくちょっと前の時代なんですよね。運慶とか普通知らないですから。

ーーそして第10夜。難しい言葉がありつつ、徐々に夢から覚めていくような内容でした。

伊東:深いのか深くないのか、辻褄が合っているようで合っていないような。結局、夢ってこういうことだよね、と思いました。

西山:これもフワッとしていましたが、最後に本人たちがすごく良い言葉を言っていたように、『夢十夜』の最後にぴったりなお話だと思いました。ここと第11夜を聞いて、また第1夜に戻ってもらえば、ループものみたいな楽しさがあるんじゃないかなって。

伊東:我々が同じ演目を2回やる意味がこのお話にありましたね。2回目の人にとってはまさに「この話、どこかで聞いたな」みたいな気分を味わってもらえるでしょうし。

ーー今回、役が逆になるということで、なにか挑戦したいことはありますか?

伊東:同じ内容ではあるものの、演じる人物の心情が全く別物になるので、「これは男2のほうがやりやすかった」とか、逆に「ここはスラスラ読めるな」みたいに、両方演じたからこそ自分の本質に触れられるところがあるんじゃないかなって。その噛み砕く作業を楽しめるように本番に挑もうと思っています。あと普段は小さい子を演じることはほとんどないので、そういうところはやりやすい、やりづらいを抜きにして楽しみたいですね。

西山:今回はテンポや空気感をお客さんの反応を感じながら、しかも、ふたりっきりで作り上げていくところは、どこかセッションみたいだなって。加えて、BGMを使わず、声だけで物語を想像してもらう仕組みになっているので、こちらとしてもわずかな情報でどうやってイメージを膨らませてもらえるかは挑戦になりました。しかも1回限りの公演なので、それぞれの回でしか生まれない表現を楽しんでほしいです。

ーー最後に、公演を観てくださった方へメッセージをお願いします。

伊東:この作品は何回も見返してもらうことで見えてくるものがあります。二人芝居を2週間にわたって演じることで、新しい空気を作り出せたんじゃないかと思います。新しい空気を感じながら楽しくやらせていただきました。ありがとうございました。

西山:今回、ひとり20役を演じていますが、それだけいろいろな人物を見てもらえるのは演じる身としては嬉しいことです。また、みなさんからの反応があって作品が完成するなということを本番を通じて感じました。またこういう機会があったら遊びに来てください!

 

元記事:アニメイトタイムズ掲載キャストインタビュー

 

▼公演の詳細はこちら(公演は終了しました)
Weeknight Storytime -超訳文学 夢十夜-