シナリオ公開①
灰桜M 「黒猫亭。それは皇都五区の片隅にある小さな喫茶店」
灰桜M 「そこで働いているのは、技術の粋を集めた少女人形たち」
灰桜M 「おいしい紅茶と料理、そして歌のステージがなによりの自慢です」
灰桜M 「黒猫亭は今日も元気に開店準備中」
灰桜M 「たくさんのお客様のお越しをお待ちしています……」
○黒猫亭(朝)
灰桜 「みゅみゅ!?」
箒星 「灰ちゃん、素っ頓狂な声を上げてどうしたんですかぁー?」
灰桜 「箒星さん、大変ですっ! こ、これっ……このお手紙を見てください!」
月下 「手紙ではなく、通知であります」
箒星 「あら、げっちゃんも。どうしたんでしょう?」
月下 「先程、五区の役所の方がいらっしゃったのであります」
箒星 「まぁまぁ、それはそれは。見せてもらってもいいですか?」
灰桜 「はいっ! とにかく、とっても大変なんです!」
箒星 「最近は電力を使いすぎることもなく、大人しくしているつもりなんですけどねぇー……どれどれ」
箒星 「……断水のお知らせ?」
月下 「老朽化した水道管の工事をするとのことであります……」
SE:鴉羽の足音
鴉羽 「ちょっと、なんの騒ぎ? もうすぐ開店時間よ」
灰桜 「あっ、鴉羽さん!」
箒星 「これ、見てください。来月2日間ほど断水するとか」
鴉羽 「ええ? そうなの?」
月下 「断水となると、お冷も出せないであります」
箒星 「お料理の煮炊きもできませんねぇ」
鴉羽 「これは困ったわね……」
レーツェル「そこで、このレーツェルにいい考えがありますわ」
鴉羽 「ちょっと、お店の軒先のお掃除をお願いしたはずだけど……?」
レーツェル「それぐらい、もう終わらせましたわ」
月下 「たしかに、落ち葉ひとつ落ちていないであります」
レーツェル「水が出ないのなら貯めればいいのです。灰桜お姉さまの背中にタンクを付けて、特別料金で売り歩くのです」
レーツェル「名付けて……灰桜お姉さまの女神の水作戦ですわ!」
鴉羽 「却下ね」
レーツェル「どうしてですの!?」
箒星 「お水を貯めるのは、衛生面で問題がありますねぇ」
月下 「ただの水に値段をつけるのは暴利であります」
レーツェル「灰桜お姉さまが注ぐというところに価値があるのですわ」
灰桜 「わ、わたし、一生懸命皆様にお注ぎします!」
鴉羽 「乗せられないの。はぁ……とにかく、そういうことなら一時閉店するしかないわね」
箒星 「残念ですけど、仕方がないですねぇ」
鴉羽 「でも、問題はそれだけじゃないわ」
灰桜 「と言いますと~……」
鴉羽 「断水の間は、お風呂にも入れないし、洗濯も出来ないでしょう?」
灰桜 「みゅみゅ、それは確かに……!」
レーツェル「由々しき事態ですわ」
月下 「人形は汗をかかないであります」
鴉羽 「あのね、月下。あたしたちは給仕人形なのよ」
鴉羽 「お客様の前に出る以上、常に清潔な身なりに気を遣わないと」
レーツェル「そういえば、皇国には銭湯という施設があると聞いたことがありますわ」
箒星 「ですが、オートマタの私達がいくのはすこし憚られますねぇ」
月下 「そもそも人形は入湯できないであります」
レーツェル「けちくさいですこと」
鴉羽 「しょうがないわよ、あたしたちの体内には燃料が入っているし、怖がらせちゃうわ」
灰桜 「そーだ、皆さん! わたし、思いつきました!」
鴉羽 「どうしたの、灰桜?」
灰桜 「銭湯がダメでしたら、温泉に行ってみてはいかがでしょーか?」
レーツェル「さすがお姉さま、いい考えですわ!」
月下 「銭湯がダメなら、温泉だってダメに決まっているであります」
箒星 「行ってみたい気持ちはありますけどねぇ」
鴉羽 「ふぅ……まあ、マスターに相談してみましょ」
灰桜 「ナギさんならいい温泉を知っているのでしょーか?」
鴉羽 「そういうことじゃなくって。ほら、お仕事に戻りなさい」
灰桜 「はぁーい」
箒星 「はぁーい」
レーツェル「はぁーい」
月下 「了解であります」